声  明


2022年12月3日
精神保健従事者団体懇談会

 現在国会で、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案の一部として、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、精神保健福祉法)の改正案が審議されている。この法案は、障害者総合支援法、精神保健福祉法、障害者雇用促進法、難病法、児童福祉法を一括審議するいわゆる束ね法案である。衆目が一致するものと精神保健福祉法のように意見が分かれる可能性がある法案を束ねて提出することは障害に関わる者の分断を招く点、議論の時間が充分確保できない点などから問題が大きい。精神保健福祉法の審議について重大な懸念があるため声明を発出する。
 これに先立って本年6月まで行われていた“地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会”では、隔離・身体的拘束の議論も行われたが、最終的に「不適切な隔離・身体的拘束をゼロとする取組」とされ、「不適切」という言葉を伴う内容となった。今国会においてもその「不適切」の内容が明らかにならないまま議論が行われ、法案の附帯決議に「厚生労働大臣告示の改正を速やかに進める」ことが盛り込まれた。しかしこの「改正」が隔離や身体的拘束の縮減に資するものになるかどうかは極めて不透明であり、今後動きを注視していく必要がある。また、“地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会”ではいったん医療保護入院の廃止の方向性が打ち出されたものの最終的には後退した報告書となった。今般の改正案では、家族の意思表示が明らかでない場合にも市町村長同意が可能になるなど、医療保護入院の増加が懸念される内容となっている。これは精神障害者の権利を損なうおそれもある改正である。「権利の擁護」が目的条項に入るのであれば、それにふさわしい仕組み、人員体制が求められるのは言うまでもない。本年8月には国連・障害者権利委員会における日本審査が実施され、9月に総括所見が示された。ここでは、心理社会的障害(精神障害)のある人の強制的な扱いを正当化する全ての不当な法的規定を廃止することを勧告している。医療保護入院の見直しに限らず、この方向性と合致しない様々な現状の課題の解決に向けた真摯な議論が必要である。
 以上のような観点から、精神保健福祉法改正案の審議においては、障害者権利条約総括所見の実施を担保できるよう慎重にも慎重な議論を強く求める。

以上



(構成団体)
(公社)全国自治体病院協議会精神科特別部会、全国精神医療労働組合協議会、
(特非)全国精神障害者地域生活支援協議会、全国精神保健福祉センター長会、
全国精神保健福祉相談員会、全日本自治団体労働組合衛生医療評議会、
(一社)日本作業療法士協会、 (一社)日本児童青年精神医学会、
(一社)日本集団精神療法学会、(一社)日本精神科看護協会、
(公社)日本精神神経学会、(一社)日本精神保健看護学会、
(公社)日本精神保健福祉士協会、(一社)日本総合病院精神医学会、
日本病院・地域精神医学会、日本臨床心理学会