ご挨拶

精神保健従事者団体懇談会(精従懇) の歴史と使命

 精神保健従事者団体懇談会(精従懇(せいじゅうこん))のホームページにようこそいらっしゃいました。「精従懇」とは、日本の精神保健・医療・福祉に従事する人々が所属する多くの団体が、職種、職域、専門性の違いを超えて一堂に会する連携組織です。
 その歴史的経緯は、1984年のいわゆる「宇都宮病院事件」をきっかけに、日本の精神医療現場における非人道的処遇の実態が明らかになり、国際社会からも非難された時期に遡ります。もちろんこれよりはるか以前から、精神障害者の人権擁護や精神医療改革の取組みは続けられていましたが、解決には程遠く、積年の構造的問題が一気に噴出したのがこの時でした。こうした状況の中で、精神保健・医療・福祉関係者ばかりでなく、利用者、家族、一般市民をも巻き込む議論が沸騰しました。そして3年後の1987年に「精神衛生法」が大改正され、現在の「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」の元になる「精神保健法」が成立したのです。
 宇都宮病院事件から精神保健法制定までの約3年間に、さまざまのムーブメントが起きました。その中でも重要なものとして、「精従懇」の前身となる「精神衛生法をめぐる精神医療従事者団体懇談会」が1986年に誕生したのです。その背景には、精神障害者の人権擁護や精神医療改革のためには、国の制度そのものを大胆に変えなければならず、そのためには個々の団体がばらばらに運動していたのでは進まないという認識の広がりがありました。いわば大同団結を要請する時代思潮の中で「精従懇」が生まれたのです。
 1987年には、この団体が主催する「精神衛生法改正国際フォーラム」が開催され、以下の5つの原則が採択されました。

  1. 精神障害者は、人道的で、人間としての尊厳を重視し、かつ専門的な医療を受けるべきである。
  2. 精神障害者は、その精神障害を理由に差別されてはならない。
  3. 入院治療が必要な場合は、常に自発的入院が推奨されるべきである。
  4. 非自発的入院患者が引き続き入院治療を必要とするか否かを決定するために、入院から適当な期間内に、独立したトライビューナルにおいて、公正かつ非形式的な聴聞が行われるべきである。
  5. 入院患者は、可能な限り自由を享受し、他の人々と自由にコミュニケートできるようにすべきである。

 これは四半世紀も前の宣言ですが、21世紀の今日でも通用するものです。つまり今もなお、この5原則が十分に実現されていないのです。私たち「精従懇」は、創立の頃に掲げたこの5原則に常に立ち帰って、現在の社会的な環境と制度を見直していかなければならないと考えています。
 「精従懇」では概ね2ヶ月に1度、加盟各団体の担当者による定例会を開催して情報交換や討論を行い、機に臨んで「精従懇」としての見解をまとめたり、行政への要望や提言を行ってきました。ホームページ内の資料編に掲載したそれらをご覧になれば、「精従懇」がこれまで何を重視して活動してきたかがお分かりいただけると思います。また、精神保健・医療・福祉に関係する大きな状況変化に応じて、「精神保健フォーラム」を開催してきたことも、重要な活動としてあげられます。
 現在、「精従懇」には19の団体が加盟しています。精神科医、看護職、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理職など、それぞれの専門性に基づく職能団体や学術団体もあります。また、公務員の団体や民間の社会復帰施設のネットワークもあります。このように「精従懇」はすぐれて多様性を備えた組織です。ひとつの問題でも、職種や職域が異なれば視点や切り口が異なりますが、それらが一堂に会することで、より成熟した考え方に達することができます。そして「精従懇」の運営は徹底して民主的です。
 私たち「精従懇」は、多様性と民主的運営というふたつの特徴を十分に活かしながら、精神保健・医療・福祉の改革を目指します。そして、精神障害のある人もない人も幸せに共生できる社会を実現するための原動力になりたいと考えています。